徒然苔スペシャル・96年6月28日編

今回は大分−大分空港への道程での徒然である。




まことに退屈な仕儀乍らバスに乗りながらこれをかいている。一度こういう間抜けなことをやってみたかったのだ。このバスはいわゆる乗合でもリムジンバスというやつなのであまり書いていてもそう恥ずかしさを感じないのがよい。いわゆる高速バスというやつであるが、この表現でつうじるであろうか。
これから空港へ向かうところである。始発は大分、別府を経由して湾の対岸にある空港まで延々と海岸線に沿って進む。おっと、いま天気雨が降ってきた。これはかなり大粒である。バイクのあんちゃんや歩行者らは別にどうということもなく歩いていたりするがここらでは割合こういったことは普遍なのだろうか。多少慌てたり軒下に待避してもよさそうであるが微塵もその気配を見せないところが一種異様である。
雨は急に止んだようだ。なるほど、このようにすぐ止むのであれば別に慌てる必要などないわけだ。さすがに地元民はよく分かっている。私のような余所者が見ておかしいと思えるようなことでも彼らは十分な理由があってそうしているのである。
そうこうしているうちに大分駅へ到着した。バスの運転手と駅にいるバス案内員との会話から、今日は気温が35度もあったということがわかる。道理でオフィスでも空調をいくらかけても効かないはずである。まだ6月だというのにすでに35度とは恐れ入る。7月8月になれば恐らく40度を超えるのであろう。恐ろしいところである。別府に地獄という観光名所があるが、別府でなくても夏はここら全体が灼熱地獄と化すのであろう。
話が前後したが空港へ向かうところから話を再開する。これも徒然であるからということで読者の了解を得たい。別にバスでなくても空港へ行く手段はあり、それはホーバークラフトを用いて大分市から空港まで湾を直線で横切るために25分程度で到着する。バスだと1時間かかる。ホーバークラフトもなかなか最初のころは独特のゆれや物珍しさが手伝って楽しかったのではあるが、何度も乗っていると景色に代わり映えもなく揺れも単調におもえてきて面白くない。その点バスならば風向明媚な海岸や観光名所の別府市街などを通り抜けてゆくのであたかも物見遊山であるかのような気分に浸ることができる。それに天気が悪かったり霧が出ていたりするとホーバークラフトは欠航してしまうしホーバークラフトの基地までタクシーやバスでゆかねばならない点も面倒である。バスならばそういったこともなく、バスの始発駅が社に近いためによほど便利である。少しでも時間があるときはできるだけバスを利用するようになった。
そうこうしているうちに海岸線に出た。対岸の山々が紫に煙っている。道の反対側には単線の線路がある。私はこの線路に電車が走っているところを一度も見たことがないのだが架線も走っているし駅も近いのだからまさか廃線というわけではなかろう。枕木の下にある砕石も割合メンテナンスが行き届いているようで草が生しているということもない。 道が山に沿っていくつかカーブをまわると別府市街が見えてきた。山の中腹から斜面に沿って海岸までびっしりと人間どもがすみついているのが湾の対岸にみえる。まことにこのような景色は私のような茫々たる関東平野で生まれ育ったものには大きに遠くまで来たものだという感慨を抱かせるのではないだろうか。私は千葉に居るのだが関東といっても北関東ものは山はかえって身近なものであろうし南関東といっても神奈川ではやはり山は身近であろうからこの感慨は或いは千葉に特有なものであるかもしれない。千葉市から見える山などはまずない。せいぜい運がよくて富士山か筑波山くらいなものである。県内の鋸山などはもとより見えるはずもない。
そろそろ市街に入ってきた。市街に入ってしまえば別府だろうが千葉だろうが市街地に変わりはなく、著しい違いなどはそうそうあるわけではない。ただ、建物と建物の間から見える山々が一瞬違和感を感じさせる。この市街地を抜けるとまた海岸に沿って進むようになる。別府を抜けると街路樹に椰子が植えられ南国ムードは満点である海も山も景色はまるで違うものになって実に心地よい風景になる。こんな私でさえ老後を過ごすにはよい場所であるかと考えてしまうようなところである。
おおっと、なんという幸運か。先ほど電車を見たことがないと書いたが、ここらまで来ると線路に架線すらかかっていないようにみえるので電車など走っていまいと思っていたが、今はじめて線路に電車が走っているのを見た。正しくは電車ではなく気動車だろうが、ブルートレインを牽引いていた。こんな時間にブルートレインが走っているのは不思議ではあるが、或いは東京から福岡に九州上陸を果たして鹿児島まで行くということが仮にあるとすれば不思議ではないのかもしれない。しかし何と幸運なのだろうか。たまにはこんなことがあってもいい。
そろそろ日出町に差し掛かってきた。この町名はひじと訓む。別に資料をあったわけではないが人口はそろそろ市制施行になるほどはあるのではないだろうか。それよりもメインストリートだと思うのだが、この道はどこへ抜けるのか知らないが大変な交通量である。見ると杵築と国東に向かう道だということがわかる。私は九州に疎いのだが国東という地名はなぜか聞いたことがあるような気がしてならない。或いは昔学校の地理や歴史の時間か、或いは本の中に出てきた地名なのか、或いは全国的に有名な地名なのか、残念ながら判断できないが或いは単に聞いたことがあるような気がする、という思い込みなのかも知れない。
この日出を抜けると空港有料道路である。この有料道路は一車線しかなくこの巨大なバスに乗っていると非常に心もとない感じがするのだが山の中へ入ってゆく道であるために風景はなかなか心楽しませるものがある。一山抜けると谷間に差し掛かった。そこを見下ろすと何と駅があり1車両のみの電車が停車していた。すぐまた山に入ってしまったのでよく分からなかったが粗末な駅舎は1つだけだと思ったが線路が多く平行して引かれていたのが奇異な印象を受ける。
そろそろ有料道路を抜けるようだ。ここを抜ければ杵築、空港まで後わずかである。わずかといってもまだまだ幾山もぬけてゆくのだが、何しろ空港が山を越えた海際にあるのだから仕方がない。ここでは海から陸に上がるとすぐに山になっているのである。海に行こうと思ったら山に入ってゆかねばならない。
そろそろ空港が近づいてきたようだ。山を下りるなり海が突然眼前に広がるというのは何度見ても新鮮である。その暴力的な景色の転換は幾度経験しても飽きるということがないばかりか見るほどに興味深くなってゆく。
とうとう空港に到着した。ここで今日の徒然はおしまいである。これから飛行機に乗って東京へと向かう。夜間の飛行になるため、天気も良いことだし東京周辺の夜景の美しさをまた堪能できるだろう。ひどく楽しみである。


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