低額プロパイダに関する一私見



はじめに
最近、乱立するインタネットプロパイダ業界は低価格化の道をひた走っているように見うけられる。これはユーザにとって大変喜ばしいことであり、大いに企業間で争っていただきたいと思う。しかし、現状のいわゆる低額プロパイダと呼ばれる一群ではトラブルが相次いでいる。これはなぜなのか。いったいなぜトラブルが頻発するのか。以下はそれに関する一私見である。これからプロパイダに加入しようとしている読者や、プロパイダをかえようとしている読者の参考に供することが出来れば幸いである。

低額であるということ
まず、低額であるということがどういう事なのか考えてみたい。低額ということは、ユーザにとっては大変魅力的なことである。低額であればこそ長時間の利用を可能にするし、アクセスする頻度も高くすることが出来るし、まことに結構ずくめであるかのようにおもえる。しかしそれは設備が故障したり、不調になったりしなければ、のはなしである。なにも低額なプロパイダに限らずシステムは不調になるし故障するものである。当然である。しかし、低額なプロパイダでは低額なるがゆえにその問題はしばしば必要以上に拡大してしまうのである。なぜだろうか?

固有の問題点(一例)
低額なるがゆえの問題とは何か?まず第一にあげられるのは、費用の問題である。特にプロパイダはインフラストラクチャに対する費用はどこもほぼ一緒である。よって、同じ規模の設備を整えたプロパイダ同士の決定的な差異とは保守ということになる。保守とはたとえば計算機を監視する、故障したモデムを修理するなど、いわゆるメンテナンスのことである。この保守作業を行うのは人間であり、低額制を貫くには人件費が一番多く削られる。これは自明のことであり、どうしようもないことであるのだが、これがシステムが不調になったときに対する対応に大きな問題点となって顕著に現れてくるのである事はすぐに理解できるだろう。必要な要員がいないのである。
たとえば、会員2,000人規模の低額制を採用しているプロパイダを考えてみよう。ここの会費を月額3,000円と仮定した場合、一月あたり6,000,000円である。これでそこそこの経験を積んだ技術者に月300,000円支払うとした場合に、月に100人の会員が必要である。2,000人規模であるために運営方針にもよるが計算機は十数台、事務所、ダイアルアップ用公衆電話回線使用料、専用線使用料、接続先に支払う回線使用料、諸経費・・・。それらを支払い、さらにこれからの会員増に対応した設備投資、これまで投資した設備への保守費用などを支払い、さらにその上に技術者を増員する余裕が出来るだろうか。すぐには出来るわけがないのである。当分増員を考えることは出来ない。その上、そろそろ評判をききつけた新規会員が増え出してくる頃合いでもある。負荷はいやがおうにも高まる。そうなればますます障害の発生件数は増加の一途をたどり、しかもその障害に対応する要員は増えず結果的に障害への対処は遅れてしまう。
第二に、前の文章にもちょっとかいたが安いがゆえに会員数が急激に増大するということである。会社設立当初はあまり知名度も高くないし、実績もないためにそれほど会員数の伸びは高くないが、ある時期から急激に会員数が増え始めてしまう。それはなぜか?今まで小人数であったがためにうまく保守も行き届き、設備も新しいためにそれほど大きな障害が生まれにくかったために良い評判が行き渡り、先行していたプロパイダに嫌気をさして契約先をかえてきたり、新しい人々がBBSなどから情報を得て入会してくるのである。彼らはこれまでの実績を見て、価格を見て、大抵は過度な期待を抱いてやってくる。そして、彼らはもはや爆発的といっていいほどの勢いで増加してくるために計算機や回線に飛躍的な負荷の増大をもたらし、設備機器の急速な老朽化をもたらし、流通する情報量の急激な変化に対応しなければならないために早急な保守が必要になってくるにもかかわらず、会員数の増大に即座に対応できる要員は非常に少なく、急場しのぎでいれた人員があったとしても、それまでに構築されたシステム全体を瞬時にして理解して保守作業に入ることなど不可能であるためにやはり対応できる要員の数には入らない。第一、計算機を急ぎ数台導入しても焼け石に水であるし、そのセットアップにもやはり時間も人間も必要である。そしてトラブルが顕在化すると会員たちによる「ローカルテスト」が始まる。メールをむやみに出してみたりむやみにトラフィックを増大させてしまう例の輩のごとき者たちである。この時点でもはや保守はかなり時間がかかるようになってしまっていることは言うまでもないのだが、彼らのおかげで一層障害が大きくなり、ここからある一定期間、この悪循環を繰り返すことになるだろう。これはこの時期に急いで導入した計算機や投資した設備が使えるようになり、教育してきた要員が実際に役に立ちはじめ、混乱しているトラフィックが収まるまで続く。当然、この悪循環を繰り返している間にも会員は増え続けているしトラフィックも増大し続ける。
しかし、ともかくも一旦狂乱は収まることは間違いはない。平静は確かに訪れる。混乱が続くとユーザがある程度離れだしもするが、それよりもやはり保守がある一点で平衡状態に達するためである。しかし、これも一点にすぎず、成長中の企業である以上はまた次の障害が現れる。これだけ大きくなっていれば通常の保守作業でも気の遠くなるような膨大な作業がある上に、ユーザからの問い合わせや苦情、要望などにも応えてゆかねばならない。また、乱立するプロパイダ間を勝ち残るためにも他社との差別化を積極的に図らなくてはならないのである。かくして、いずれ次の狂乱が訪れることもまた間違いないのである。そしてそれに対処するのは人間であり、人間をやとうには金が要る。機械も買わなくてはならない。これらはすべて会員の会費からまかなわなくてはならない。企業である以上は利益も出さなくてはならない。かくして人件費は圧縮され・・・

一提案
ここでは一般的な問題を意識的に度外視して、費用の観点から考えて見たわけだが、しかし、会員が増えるからこそ資金も増え、対策費も増えるわけである。つまり、ある程度は仕方のない問題だとさえいえるのである。しかし、上記の例からも分かるように、低額なプロパイダは固有の問題を抱えているのもまた事実である。ここで一つ提案したいのだが、低額制を採用している企業に1から10まで望むのを止めるべきである。あなたはそれに見合うだけの費用を企業に支払ってはいない。ここは一つ冷静に考えて欲しい。たとえ企業の広告に躍らされて(企業の広告で、これだけの額だけでそれ以上のサービスを受けることが可能である旨を書いてあることを真に受けるということ)しまったとしてもそれはあなたの罪である。常識的に考えてそんなわけがないのである。あなたは加入しようとしているプロパイダに対してどれだけの調査を行っただろうか?どれだけのサービスを受けられるか評価しただろうか?ほとんどアクセスポイントや会費だけで決定してしまい、あとで「だまされた!」と叫んでいるのではないだろうか。それらはすべてむなしい。叫ぶだけ無駄である。より良い品質を求めるならそれなりの出費が必要なのである。当然ではないか。ここ日本は社会主義経済などではないのである。支払った代価に見合うだけのサービスしか受けられないことなど、今更誰にいわれるまでも無いはずである。それに安ければあなたと同じような考えを持った人がより多く会員になるのである。余計トラブルの要因が増えるだけではないか。長期的な視野を得ることが出来れば、そんな潜在的トラブルを抱えた低額プロパイダだけにしがみつく理由などどこにも無いということにあなたも必ず気づかれるはずである。

終わりに
結局、割り切ってものを考えましょう、というのが結論である。それなりのところにはそれなりのものしかないのだから。たとえば具体的に名をあげて例を挙げるとすると、鼈甲飴にはこれだけしか支払っていないからホームページ用の10Mのハードディスクの確保と公衆電話回線でダイアルアップPPP接続さえ出来ればいい、そのかわりメールは受け損なったりしては困るから保守に定評のあるIIJに、これだけの金額がかかるけれども受け持たせよう、といったようにである。すべてを鼈甲飴にやらせようというのが虫が好すぎる話ではないか。もちろん、ここで出ている会社名はそれぞれ置き換えて読んでもらいたいのだが、低額制プロパイダなどどこも一緒である。また、NTTのOCNの展開に低価格をうりにしてきたプロパイダがどう太刀打ちするのか見物であるが、これはまた次の機会に譲りたいと思う。
最後に、読者のプロパイダ選びが満足裏に運ぶよう祈って 1996年4月28日


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